tadashi's blog

私は在野の研究者です。日本語教師をしながら、日本語の「は」「が」の使い分けを解明する理論に至りました。それから、この理論を文法基礎理論として体系化し、また、それらを裏付ける哲学的かつ科学的に裏付けの研究に進みました。

「は」と「が」の交差対立理論の概要② 「定性関係」

定性関係という用語と概念について

 

<「定性関係・判断文」の「定性関係」の意味> 

 次に、三尾により「判断文」とされた、形式的に、名詞述語文と形容詞述語文をとりあげる。文を「現象文」と「判断文」を二元的分類枠組みとする三尾砂の問題は、認知内容と認知様態の区別を混同してしまうという問題である。「判断文」が何を判断した結果、構成されたのであるか。このことはこれまで不問に付されてきた。判断は、通常、「定性関係」についてであるというのが、筆者の答えである。

「判断文」と言われた文の種類を論理的シェーマの違いによって区別すると次のようになる。

 

<名詞述語文の主要なもの>

①「これはみかんだ」は、個体のカテゴリーへの包摂

②「みかんはくだものだ」は、小カテゴリーの大カテゴリーへの包摂

③「このひとは田中さんです」は、個体と固有名の一致

 ほかにも、状態(病気)、順番(前、あと)や位置関係(上、下)などを表す名詞述語文もある。(最終的結論は***参照)

 

<形容詞述語文の主要なもの>

①「このみかんはあまい」は、ある個体(みかん)の性質

②「みかんはあまい」は、「みかん」という特定の類についての共通性質

 

 以上のような文類型をすべて包摂する「判断」の対象になっているものはなんだろうか?

 「事態文」の分析で、ノエマ(認識対象)とノエシス(認識様態)に対応するのが、ノエマには「対象の動き・変化」という出来事が対応し、ノエシスには「直観」が対応していた。「判断文」という名称が示すのは、「判断」というノエシス的契機だけである。では、判断の対象であるノエマ的契機、文の命題内容は何であるか?

 その答えは、相対的に恒常的な「関係」であるというきわめて広い概念に行き着くことになった。

 益岡( )を始め、階層構造理論の支持者は、このような性質を「属性」叙述とし、名詞述語文にもあてはめようとしているが、本書では、名詞述語文の「カテゴリー」と形容詞述語文の「性質」とは明確に区別すべきであると考える。「属性」は、property(英語)・attribut(仏語)の訳語として理解出来る。しかし、「判断文」(本書の「定性関係文」)という文の種類の必要かつ十分な下位区分を求める立場から、筆者は、そのような用語法自体について、論理的意味論の観点から不賛成である。

 また、「カテゴリー」「性質」のほか、名詞述語と形容詞述語にまたがる「状態」「位置」「空間的前後」「時間的前後」などの論理的意味類型を含める。これらの下位の複数の論理的意味類型を手掛かりに、これらすべてに共通する大分類としてどう把握するかを問う。

 この違いは、言語を出来上がった文を解釈する視点のみから見るか、さらに、できあがった文の成立過程を加えてみるかのアプローチの違いがある。文の成立過程には、前述定段階の認知過程の「内容」と「様態」を含む。その文の形式への反映が、「事態」と「関係」の内容的区別、「直観」と「判断」の認識様態の区別である。できあがった文を受信し、解釈する視点からだけでは、こういった理解は生じない。

 名詞句の把握の仕方も、先に、前述定レベルの個別具体的な「もの」「ひと」などの知覚対象に対し語(記号ラベル)を付与したものと見る。これらはほかに「とき」「場所(ところ)」「こと」などがあり、この観点から、私たちは、語と知覚対象(類)と意味(概念など)の三項関係について正確な認識と理論を手にしなければならない。

 

 無論、「関係」の内包的意味を定義しないままでは広すぎる。日本語文法理論の枠内では、文の命題内容の水準で考えて、「事態」文との対比により、「個体の名称(固有名詞)」「性質」、「カテゴリー」、「状態」という下位区分によって定義する。

 「田中は病気だ」のような文の種類を、この下位区分として「状態」を含める。「状態」の場合、「状態」のひとつは、「病気だ」のように、アスペクト性が希薄である。あるいは、「このコピー機故障している」のように、形態素によるアスペクト性が前景化していない述語づけ判断を包括する概念とする。「状態」に入る文、「このコピー機は故障している」の「〜ている」は、状態性が強い。「今、電話しています」のような行為動作の継続性は弱い。区別の根拠は、アスペクト(相)の開始相・継続相・完了相の三項対立が前提となるかどうかである。

 また、「ただいまの温度は26度です。」のような文は、「指定文」であり、厳密には、「パラメータ指定文」である。

 「関係」は、「事態」との対比により、事柄の本質から、時間軸上のある時点を超えて成立する相対的恒常性を備えている概念とする。したがって、この文脈で言及する場合、常に「定性関係」ということにする。

 なお、ここでいう「定性」は、「量」との対比による。英語の、「定性」qualitativeと「定量」quantitativeの対比による「定性」である。ところが、言語学の「定・不定(definitive/infinitive)と紛らわしい。そこで、性質の一定を表す文などに現れる語句の「定・不定」と区別するために「定性関係」とする。